2001年9月11日のこと

アメリカ同時多発テロの日


私はニューヨークにいました。その日は、朝いつものようにオフィスの前のストリートベンダーからコーヒーを買っていました。旅客機が、異常な低空飛行で頭上をかすめて行きました。オフィスに入り仕事を始めて暫くすると同僚が、「飛行機がワールド・トレードセンターに突っ込んだんだって!」と言い出しましたが、私は本気にせず仕事を続けました。デマでないとしても観光ヘリコプターか何かが墜落したかと思いました。でも職場がどんどんザワつくので、何が報道されているのかと思い、トレーディングルームにあるテレビを覗きに行くと、ツインタワーの一つから噴煙が上っていました。新しい映画の宣伝?窓からダウンタウンの景色に目をやりました。映像と同じ景色です。映画ではない。現実に起こっているのだと、ここで気づきました。旅客機が?ありえない事故。そうこうしているうちに、ワシントンDCのペンタゴンにも旅客機が突っ込んだ。これはテロだと報道されました。ハイジャックされた旅客機がまだ行方不明中らしい。職場はどよめき、避難が始まりました。


次のターゲットはエンパイアービルかホワイトハウスかと、憶測が飛び交いました。私の部署は日本人部隊。日本本社からの指示は、仕事を続行しながらオフィスで待機せよでした。無視して避難する日本人もいましたが当然です。本社は現場の状況を知らない。友人から電話がきて、なぜまだ会社にいるのかと言われました。結局私は数人の日本人と夕方までオフィスに残りました。会社への忠誠心からではなく、自分のアパートはマンハッタンのほぼ真ん中で、オフィスにいても自宅にいても危険。避難する場所がないからです。恐怖の中で業務をしたので何をしたか覚えていません。窓の向こうにそびえていたツインタワーは消えており、空は灰色になっていました。


人には言えない思いの中にいました。耳を疑うような感情が飛び込んできたからです。歓喜のような声が。信じられない。私はショックで心の受信機を遮断しました。その後は、言いようのない苦しい感情の中にいました。私は加害者と被害者の両方の感情を受信したようです。そして旧約聖書のバベルの塔が頭に浮かびました。言葉が、人種が、宗教がと、違う理由を見つけては分裂してゆく事を何千年も繰り返している私たち。



その夜は軍用機が低空旋回していたのか、空の騒音がすごく、何かが空から落ちてくるような錯覚にとらわれ、眠りに入っても恐怖で体が起きてしまいます。まどろみながら思いました。日本にいた頃ウォールストリートの映画などを見て憧れた事。ワールド・トレードセンターで金融の仕事をしたいと思っていた事。就職の時、ワールド・トレードセンターの銀行からオファーを受たけど、行かなかった時の事・・・。私の職場でも、愛する人を失った悲しみから立ち直れない人へ、カウンセリングが設けられました。


その後、マスメディアが手際良く報道する内容に違和感を感じました。湾岸戦争が起こった時もそうでした。多くの戦争で、国民たちは戦争する理由がよく分からないで戦場に送り込まれます。そして兵士達は、ただ自国のために尽くしたい思いで戦う。国のトップが誰かを指差して、あやつは悪党だから成敗すべしと言う。そして国民が納得するような事件が、都合よく勃発し、メディアで煽られる。真珠湾もそうだった。アメリカの兵士達は、ベトナム戦争や湾岸戦争で傷ついて帰還しても、邪魔者扱いされてホームレスになったりしている。国への忠誠心は裏切られ、多くの元軍人が絶望の中で自殺している。もう沢山だ。


私には愛国心は持てない。国境で裏返えって憎しみに変わる愛は、怖い。裏返らない愛とは、どんな愛?私たちは、どうしたらそんな世界に住めるのだろう?


アメリカに住むイスラム教の人達は、この後大変な目にあいました。その後、ニューヨーカー達はたくましく前向きに立ち直ってゆきました。私の中では、ツインタワーと共に自分の中の何かが崩壊してゆきました。そして答えの見つからない問いかけが、くすぶるのでした。競争している場合ではない。それしか分からない。そして3年後にニューヨークを去る事になるのです。



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